セールス4,000万枚の歴史的名盤NIRVANA「NEVERMIND」は全曲カバーされているのか?
没後20年以上経った今もなお、聴く者を惹きつけて止まないカート・コバーンの楽曲。カート、それはカート。カートの前にカート無く、カートの後にカート無し。
商業主義に背を向けながらも、時代の寵児に祭り上げられ、苦悩のなか激動の90年代ミュージックシーンを一気に駆け抜け、27年間というあまりにも短い人生に自らの手で終止符を打ったカート。今日はそんな「若者の代弁者」と言われた希代のソングライター、カート・コバーンの知られざる魅力に、わたくし「木ヲ見テ森ヲ見ズ」が迫ります。
年始に見て、久々に声を出して笑った友近のショートコント「涼風 凛」へのオマージュで始めてみました。
実際の企画内容はそんな大仰なものではなく、全世界で4,000万枚以上売れたNIRVANAの2ndアルバム「NEVERMIND」について、さぞかし色々なアーティストにカバーされているだろうから、まるまる1枚全13曲、カバーソングが存在しているんじゃないか?という興味から調査をしてみました。
調査にあたって一つだけルールを課しまして、トリビュート・アルバムは企画の趣旨から外れているので除外しています。
- 1. Smells Like Teen Spirit
- 2. In Bloom
- 3. Come As You Are
- 4. Breed
- 5. Lithium
- 6. Polly
- 7. Territorial Pissings
- 8. Drain You
- 9. Lounge Act
- 10. Stay Away
- 11. On a Plain
- 12. Something in the Way
- 13. Endless, Nameless
1. Smells Like Teen Spirit
ニューヨークパンクシーンの最重要人物、パティ・スミスによるカバー。 すべてカバー曲で構成されたアルバム「Twelve」(2007年リリース)に収録。 他にはStevie Wonder、The Rolling Stones、The Allman Brothers Bandの曲を収録。
その昔、こんなことがありました。それは1996年のこと。プロ野球のお話です。ロッテ vs ダイエー(現ソフトバンク)の開幕戦での出来事。当時ダイエーで監督を務めていた王貞治さんは、敗戦した試合後、ロッテの開幕投手を務めた園川投手について、「開幕投手には格と言うものがあるだろう。」と言及しています。園川が前年に残した成績は8勝9敗で防御率が3.52。決して優秀な成績とは言えません。ましてや、伊良部、小宮山、ヒルマンと他に候補がいる中でなんでよりにもよって園川なんだと。前年に12勝を挙げチームの勝ち頭だった工藤を開幕投手に指名したうえで、予想を外し対戦に敗れた王さんの負け惜しみとも取れます。わたしも当時そのように考えていました。しかし今なら王さんの野球観、延いては人生観が理解できるような気がします。
曲をカバーするにも格があるだろうと。
何が言いたいかというと、パティ・スミスのカバーがしっくり来るということです。
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2. In Bloom
アメリカのカントリー系シンガー・ソングライター、スターギル・シンプソンによるカバー。ケンタッキー州生まれの38歳。このIn Bloomも収録されているアルバム「Sailor's Guide To Earth」(2016年4月リリース)はグラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされています(授賞式は日本時間で2017年2月13日)。日本国内盤は2月8日に発売予定。
【追記】
主要部門の最優秀アルバム賞は逃しましたが、最優秀カントリー・アルバム賞を受賞しました。
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3. Come As You Are
LAのロックバンドPrep Schoolによるカバー。メロディの美しさが際立つ静かな立ち上がりから、畳みこむ中盤への展開が心地よいです。まだこの曲しかリリースしていないようですね。学業が忙しいのでしょうか。
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4. Breed
続いてもLAのバンド、Otepによるカバー。アルバム「The Ascension」(2007年リリース)に収録。女子声なのですがどこか中性的で、ともずればハイトーンの男子声にも聞こえなくもないような。終盤のツーバスのドコドコっぷりが心地よいです。
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5. Lithium
アメリカのシンガー・ソングライター、Bruce Lashによるカバー。アルバム「Prozak for Lovers II」(2004年リリース)に収録。これはあれです、休日の午後、おしゃれなカフェやヘアサロンで耳にしそうなアレンジです。
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6. Polly
スウェーデンのシンガー、Micadeliaによるカバー。アルバム「Free Ride」(2009年リリース)に収録。他にもLed ZeppelinやNeil Young、Carol King、Blondieなどのカバーも有り。カバーソングで構成したアルバムのタイトルが「Free Ride」(只乗り)ってのがウィットが利いていていいですよね。
7. Territorial Pissings
カナダのバンド、Left Spine Downによるカバー。アルバム「Voltage 2.3: Remixed & Revisited」(2009年リリース)に収録。サイバーパンク調のアレンジがおもしろいですね。カートが聴いたら苦笑いしそうですが。ちなみにバンド名は短縮して「LSD」と表記されることもあるそうです。う〜ん、サイバー。
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8. Drain You
アメリカ・アリゾナ州を拠点に活動するトリオ編成のストーナー/ドゥームメタルバンド、Goyaによるカバー。わたしはストーナー、ドゥームといった音楽ジャンルには明るくなく、なんとなく怪奇的でおどろおどろしいイメージを持っていたのですが、このカバーを聴く限りは原曲のアレンジに忠実で、自分が抱いていたイメージはどうやら間違っていたのだなと悟りました。
加えていうと、わたしはこのしゃがれ気味なボーカルの声が非常にツボで気に入りました。ジャケットのイケてなさも愛おしいです。ちなみに、B面にはD-7(NirvanaがカバーしたWipersの曲)のカバーが収録されています。
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9. Lounge Act
アメリカのサーフインストバンド、The Retrolinersによるカバー。アルバム「Surf Avenue」(2003年リリース)に収録。
わたしの感想としては、サーフインストとしてはいささか消化不良かなと。誰か歌えばいいのに。
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10. Stay Away
1976年のパンク・ムーブメントの勃興から今もなお活動を続ける、イギリスパンクシーンの重鎮、チャーリー・ハーパー率いるU.K.Subsによるカバー。チャーリー・ハーパーは御年72歳(2017年1月現在)。日本の有名人だと前田吟さんや平泉成さんと同い年です。72歳で現役のパンクロッカー、格好いいですよね。
このバンドのおもしろいところをもう1点。アルバムのタイトルをアルファベット順に付ける、ってところです。
ん?ってなると思うので説明すると、1979年の1stが「Another Kind of Blues」。「A」で始まっていますよね。続く1980年の2ndが「Brand New Age」、3rdが「Crash Course」。
順に頭文字がA、B、C、ってなってますよね。こんな具合にリリースを重ね、2016年の「Ziezo」で前人未踏(?)のアルファベット全26文字コンプリートを達成しています。
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11. On a Plain
アメリカのロックバンド、Frankenstein 3000によるカバー。すべてカバー曲で構成されたアルバム「The Scoops Are On Their Way」(2013年リリース)に収録。他にDavid Bowie、Dead Boys、Queen、Stoogesなどをカバーしています。
それにしても「Frankenstein 3000」ってバンド名がツボです。同じ理由でRob Zombieの弟のバンド、「Powerman 5000」も好きです。弟の名前もまたイカしています。「Spider One」ですよ、「Spider One」。格好良すぎます。あわよくば名乗りたいくらいです。
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12. Something in the Way
ニューヨークを拠点に活動するバンド、At Seaによるカバー。ゲーム「The Last of Us Remastered」のトレイラーでも使用されているので、気づかぬうちに耳にしている方もおられるのではないでしょうか?
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13. Endless, Nameless
シークレット・トラックであるこの曲にもしっかりカバーは存在していました。アメリカ・インディアナ州のバンド、Mystikos Quintetによるカバー。ジャズトロニカ(ジャズ×エレクトロニカ)やアシッド・ジャズと呼ばれるようなカテゴリーだそうです。 「Roll Away the Stone」(2011年リリース)に収録。
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ここまでお読みいただいてわかる通り、検証結果は「全13曲カバーされている」でした。
さすが4,000万枚売ったアルバム。ジャンルや世代、国境を越えて、さまざまなアーティストに絶大な影響を与えているのが見て取れます。中でも「Come As You Are」のカバーされっぷりが頭一つどころか三つ四つ抜きんでていました。
確かに、美しいメロディ、印象的なギターリフ、静と動のコントラストなど個人的にも好きな曲ではあります。ただ明らかにこの曲のカバーが他の曲に比べて多いとなると、なにか英語圏の人の心に訴えかける歴史的・文化的な背景があるのかなと感じずにはいられません。
ちなみにですが、わたしがNIRVANAの中で好きな曲を3つ挙げるとしたら、「Floyd The Barber」「Scentless Apprentice」「Aneurysm」になります。元々ポップな曲が好きなのですが、いびつで不均衡、緊張感に満ち不安定でありながらどこかキャッチ―な印象を受ける楽曲にこそNIRVANA、すなわちカート・コバーンの魅力があるのではないかと感じます。
ブログ開設3週間記念特別企画「希代のソングライター、カート・コバーン」いかがだったでしょうか?
次回は「J-POPに魅せられた男、マーティー・フリードマン」の半生に迫ります。
ご期待ください。